ざっくり言うと
- ディーラーのミスを理由に36億円の支払いを拒否したギャンブラー
- シンガポールの裁判所は、支払いを求めるカジノ側の訴えを棄却
- 一転、オーストラリアの最高裁は、ギャンブラーに支払いを命じる
2024年9月12日、オーストラリア クイーンズランド州の最高裁は、カジノでの約36億円(4,730万豪ドル)の負けを踏み倒そうとしたシンガポール人のウォン・ユー・チョイ氏に全額の支払いを命じました。
法廷文書によると、ウォン氏は、2018年7月26日から8月2日の間に、ザ・スター・ゴールドコーストでカジノクレジットを使って約36億円(4,730万豪ドル)大負けしました。
カジノクレジットとは、顧客の申請に基づいて、カジノやジャンケットが顧客に資金を前貸し(事後に清算)する資格を与えることです。カジノやジャンケットは、顧客の過去の遊興状況や外部の信用調査機関を使って、顧客のクレジットライン(信用貸付の上限)を設定します。一般的には、カジノクレジットを設定する際、カジノは小切手を担保として受け取り、返済期間や分割支払い額などについての同意書を作成します。この小切手には金額が記入されているものと、未記入のものがあり、金額が未記入の小切手はVIPでよく使用されています。また、白紙の小切手は、後にカジノと顧客の合意によって額面が決定されます。
また、カジノが受け取った小切手は、そのまま金融機関には持ち込まれず一定期間カジノで保管され、約束通り貸付が返済されない場合、カジノはその小切手を金融機関に持ち込み換金することになります。ただし、顧客の当座預金に十分な残金がなければ、カジノは換金することができません。
ウォン氏は、カジノで大負けした後、借金をそのままに出国してしまいます。そこで、カジノ側はウォン氏が前年、姉妹店のザ・スター・シドニーに渡していた空白の小切手を使って請求額の回収を試みますが、ウォン氏は銀行にカジノからの小切手を換金しないよう指示し、小切手が現金化されることはありませんでした。
その後、2019年、カジノ側は、シンガポール国際商事裁判所にウォン氏を訴えます。しかし、裁判所は、シンガポールの民法が特に外国の司法管轄区で発生したギャンブルの債務執行を禁止しているという理由でこの訴えを退けています。
そして今回、オーストラリア クイーンズランド州の最高裁は、ウォン氏にカジノでの負け約36億円の全額の支払いを命じました。裁判の中でウォン氏は、カジノからの請求は支払う必要がないものだと反論しています。ウォン氏の供述によると、バカラでのカードの配り方をめぐりスタッフらを注意していったんゲームを打ち切ったところ、カジノの最高執行責任者ポール・アーバックル氏から口頭で、7月29日までの負けは帳消しにし、その後もスタッフがミスを重ねた場合は負けても請求しないとの申し出があった。そして、8月1日に再度ミスがあった時点で即座にプレイを中断したと主張しています。一方で、アーバックル氏はこのような約束はしていないとウォン氏の反論を真っ向から否定しています。
裁判では、アーバックル氏がウォン氏に宛てた謝罪の手紙も提出されましたが、そこには謝罪の言葉はあっても借金帳消しの約束は言及されていませんでした。裁判所は、ウォン氏の主張する約束には裏付けがないという理由でウォン氏の反論を退け、約36億円の支払いをウォン氏に命じました。