2022年05月18日

「4,630万円、ネットカジノで使った」件で、オンカジの違法性が明らかになるかも

「4,630万円、ネットカジノで使った」件で、オンカジの違法性が明らかになるかも

ざっくり言うと

  • 全部ネットカジノで使ったと嘘をついてお金をどこかに隠しているのでは?
  • 弁護士が口座出納記録を公開し、本当にオンラインカジノに入金していたことが判明
  • 阿武町は4,630万円と弁護士費用など合わせて約5,100万円を求め、24歳男性を提訴
  • ついにオンラインカジノの違法性が裁判で明らかになるかも

<8月3日追記>
2022年8月1日、田口被告は、ユーチューバーのヒカルからの独占インタビューの中で、オンラインカジノで全額使ったと供述したことについて、「本当ですよ。全部使いました。」と返答。

 

<5月26日追記>
複数メディアの報道によると、阿武町は田口容疑者が税金を滞納しているとして、決済代行業者や銀行に対し差し押さえや取り立て処分を行ったところ、業者の口座には合わせて600万円しか残っておらず、また、決済代行業者は阿武町に「お金を払いたい」と電話していたとのことです。そして今月20日に、田口容疑者の銀行口座に残っていた金額と、決済代行業者3社に出金された金額の合計、約4,300万円が阿武町に返還されました。

「600万円が田口容疑者から預かったお金の残りで、これが全部だとしたら、3600万円(あまり)を業者が立て替えて支払った可能性がありますよ。この事件が終わらずに、警察の捜査がさらに深く食い込んでくると、町が行政の取り立て訴訟を起こす可能性もありますから、そうするとその裁判過程の中で代行業者がどのような業務をしているのか、探られてしまうという懸念があるので、トータルでそこを避けたかったという可能性もあると思います」(元大阪地検検事 亀井正貴弁護士)

 

<5月23日追記>
複数メディアの報道によると、オンラインカジノの決済代行業者から阿武町に3,500万円余りが返還されていたとのことです。返還したのは、3つの決済代行業者のうち、最も多く入金されていたA社。
A社は、犯罪で得た金と知りながら保管し続けると刑法の盗品等関与罪に問われる可能性があるため、自主的に町に返還したとものと思われます。田口容疑者の「全部使った」が嘘だったのか、腹を探られたくない決済代行業者が損失を補填したのか、続報を待ちたいと思います。

 

<5月19日追記>
2022年5月18日、山口県警は、振り込みを受けた田口翔容疑者(24)をスピード逮捕しました。
逮捕容疑は、電子計算機使用詐欺で、自分名義の銀行口座に入金された4,630万円が山口県阿武町のミスで誤って入金されたものと知りながら、自分のスマートフォンを操作してオンラインカジノの決済代行業者(M社)の口座に400万円を振り替えて財産上、不法の利益を得たためとなっています。まずは、証拠隠滅と逃亡を防ぐために身柄を押さえた形です。そして、今後、M社同様、国内の業者とみられるL社、そして最終的にA社への振り替えに関しても、同様の容疑で再逮捕がなされることになるはずです。

また、現時点では、逮捕容疑に賭博罪は含まれていませんが、今後の捜査で賭博罪での再逮捕があるのか気になるところです。

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連日、メディアを賑わせている「誤送金されたコロナ関連の給付金4,630万円を全部ネットカジノで使った件」

全部ネットカジノで使ったと嘘をついてお金をどこかに隠しているのではとの疑惑を持たれていましたが、24歳男性の弁護士が口座出納記録のデータを公開し、本当にオンラインカジノに入金していたことが明らかになりました。

口座出納記録のデータによると、誤送金された4,630万円は、約340万円(5,000ドル×5回)をデビッド決済で、L社に300万円を銀行振り込みで、M社に400万円を銀行振り込みで、そして残金のほとんどをA社に銀行振り込みで、オンラインカジノの決済代行会社に入金がなされています。そして、わずか11日間で残金は68,743円となっています。

ただし、本口座出納記録データで4,630万円がオンラインカジノに振り込まれたことは証明されましたが、そのお金がギャンブルに使われてしまったのか、もしくはオンラインカジノもしくは決済代行会社にデポジットとして残っているのかは謎のままです。

24歳男性が本当に4,630万円をカジノで溶かしているのであれば、本人が各カジノにギャンブル収支報告書(Win/Loss Report)を申請すれば、それを証明することができます。ただし、本人がギャンブル収支報告書の提出を拒んだ場合、日本の警察機関を含め第三者がカジノに同書類の提出を求めても、カジノが発行してくれるとは限りません。

 


(画像出典:ゴゴスマより)

 

◆そもそもオンラインカジノは違法なのか?

本件でギャンブルに詳しい弁護士や評論家が、メディアに登場し解説していますが、法解釈上、オンラインカジノは違法とのことです。

オンラインカジノは、平成25年の衆議院での答弁によって、その違法性が確認されています。ただし、これは裁判所ではなく政府としての見解であり、オンラインカジノが違法となる可能性を指摘しているに過ぎませんが、この答弁によって少なからず適法と言いきれないことは明らかです。

<質問>
「日本国内から、インターネットを通じて、海外で開設されたインターネットのオンラインカジノに参加したり、インターネットで中継されている海外のカジノに参加することは、国内のインターネットカジノ店において参加する場合だけでなく、国内の自宅からインターネットを通じて参加する場合であっても、刑法第百八十五条の賭博罪に該当するという理解でよいか。」

<答弁>
「犯罪の成否については、捜査機関が収集した証拠に基づいて個々に判断すべき事柄であることから、政府として、お答えすることは差し控えるが、一般論としては、賭博行為の一部が日本国内において行われた場合、刑法(明治四十年法律第四十五号)第百八十五条の賭博罪が成立することがあるものと考えられる。」

衆議院議員階猛君提出賭博罪及び富くじ罪に関する質問に対する答弁書

 

一方で、国内から海外のオンラインカジノに参加したことで有罪となった事案は、2016年の京都で3人が逮捕・略式起訴され、罰金20万円および罰金30万円の略式命令を受けた1件のみです。正確には、同じく2016年の千葉で、別件の余罪として逮捕された事案がもう1件あります。

そして、過去の有罪事案がほとんどないことで、オンラインカジノを適法と謳っているサイトは少なくありません。しかしながら、過去の有罪事案がほとんどないことは、その行為の適法性をなんら保証するものではありません。

本件については、弁護士法人 淀屋橋・山上合同の増山健弁護士の解説が分かりやすいです。

<日本国内からアクセスした利用者は処罰されないのか?>

『サイト自体は海外で運営されていますが,日本国内にいる人が,海外送金等何らかの形で一定の金額を支出してそれを「賭けた」のですから,単純賭博罪や常習賭博罪の処罰対象となる可能性があることは確かです。(中略)結局,国内からのベッティングサイト利用者は,賭博罪で有罪判決まで受けるリスクが,全くないとは言えませんが,必ずしも可能性が高いわけではない,ということになります。』(増山健弁護士の見解)

オンラインのスポーツ・ベッティングの適法性と注意点

 

 

◆ついにオンラインカジノの違法性が裁判で明らかになるかも

山口県阿武町は、給付金全額と弁護士費用など合わせて約5,100万円を求め、24歳男性を民事で提訴しています。
花田町長は「一番大事なのは、裁判の中で事実を、お金の流れとかどこへどう使ったということを、包み隠さず真実を語っていただくことだと私は思う」と、また、24歳男性も弁護士を通じて「お金を使ったことは大変申し訳なく思っています。少しずつでも返していきたい」と述べています。

現時点では民事での提訴にとどまっていますが、ここまで世間を賑わせた事件であり、また、貴重な税金をギャンブルに費やされた住民感情を鑑みれば刑事告訴は必至です。そして、刑事告訴となれば、お金の流れだけでなく、オンラインカジノの違法性も問われることになります。今後、どのような審判が下されるのか、裁判の行方が注目されます。

 

 

◆さいごに

元東京地検特捜部副部長の若狭勝弁護士によると、実際にオンラインカジノで4,630万円を溶かしていた場合、そのお金は雑所得となり得るので、確定申告する必要があり、納める税金は少なくとも2,000万円以上になるとのこと。また、この男性は誤送金されたお金をスマートフォンでオンラインカジノに入金したと弁護士に話していることから、電子計算機使用詐欺罪も適用され、10年以下の懲役が科せられる可能性があるとのことです。

加えて、オンラインカジノで4,630万円を溶かしていたことが単純賭博罪とみなされれば、50万円の以下の罰金または科料となり、運よく略式起訴となっても前科が付くことになります。また、この男性が以前からオンラインカジノで頻繁に遊んでいて、より刑の重い常習賭博罪とみなされれば、3年以下の懲役となります。

個人的には、前段より、後段の処罰が気になるところです。
本判決は、今後のオンラインカジノの取り締まりや裁判にも大きく影響していくことになると思います。

ここまでメディアが大きく取り上げ、警察も動いている事案です。
当面、オンラインカジノで遊ぶのは、控えた方がよさそうですね。