生活保護者がギャンブルで絶対に勝てない理由

基本的に、生活保護費の使い道は自由です。競馬をしようが、宝くじを買おうが、パチンコをしようが自由です。

ただし、生活保護制度では、生活保護受給者は、ギャンブルで得た利益も収入と認定されます。そして、競馬などで得た収入を届け出ると、その分が翌月の生活保護費の支給額から差し引かれることになります。そのため、生活保護を受給しながら保護費を上回る収入を得続けることはできません。

厚生労働省の調査によると、平成28年度に公営ギャンブルやパチンコで得た収入を届け出ず、生活保護費の不正受給と認定された件数は100件に上ります。そのため、生活保護受給者は、隠れてギャンブルをせざるを得ないのが実情です。

 

◆生活保護受給者には厳しいルールが

一般的にギャンブル収入は、1年間の勝ち負けのトータルが50万以下なら一時所得が0円になるため税金はかかりません。しかしながら、生活保護受給者には、あり得ないほど厳しい制限が設けられています。

例えば、競馬で最初に3,000円の馬券を買って的中し、3万円になったとします。
その3万円を次のレースに全額突っ込むも、はずれて0円になった場合、翌月の生活保護費はどうなるでしょうか？

生活保護法では、その日のトータルがマイナス3,000円であっても、一時的に膨らんだ3万円が収入として認定され翌月の生活保護費が3万円が減額されることになります。つまり、生活保護費の使い道は自由と言いつつも、生活保護受給者はギャンブルができないような制度設計がなされています。

ただし、あくもでも生活保護法のルールに従って、正直にギャンブルの勝敗を申告した時の話です。

 

◆ギャンブルで大赤字なのに生活保護費を没収された事例

2021年12月、大阪地裁は、過去6年間でJRAから約327万円の払い戻しを受けていた生活保護受給者の70代男性に対し、払戻金から的中馬券の購入代金を差し引いた全額を行政側に返還するよう命じました。

裁判資料によると、大阪府茨木市に住む70代男性は、生活保護費を受給しながら、2013年4月から2019年7月までの約6年間、インターネット上で約480万円を投じて馬券を購入し、約327万円の払い戻しを受けていました。

2019年7月、茨木市福祉事務所の担当者が男性宅を訪問した際、室内から口座の通帳が見つかり、約6年間に及ぶ競馬の実態が明らかになりました。男性は、この間に813万4,664円の生活保護を受給しており、市側はこれを不正受給と認定しました。

茨木市福祉事務所は、口座記録から、男性はJRAから計101回、総額327万4,820円の払い戻しを受けていたことを特定。１回当たりの馬券購入代金を100円と推計した上で、的中馬券の購入代金を差し引いた326万4,720円を徴収する決定をくだしました。

生活保護法は、受給者が収入を得た場合、支給元の自治体に届け出なければならないと規定しています。これはギャンブルの払い戻し金も例外ではなく、男性は馬券が的中してもそれを届け出ていませんでした。

2021年２月、男性側は、トータル収支が約150万円の赤字だったことを理由に、生活保護の返還義務はないと処分の取り消しを求めて大阪地裁に提訴しましたが、同12月に棄却となっています。

森鍵一裁判長は、判決理由の中で、トータルで勝ちが上回った場合に限って収入を届け出ればよいということであれば、たとえ現段階で勝ちが続いていても「トータルで負ける可能性があるから申告しなくて良い」という考え方が成立してしまうと判断。そもそも払戻金が馬券の購入代金を上回ることは極めてまれであり、男性側の主張を認めれば、生活保護受給者は収入を届け出ないまま、結果的に生活がさらに困窮する可能性が生じ、生活保護法の目的に反すると指摘しています。

 

◆ギャンブルをするなら絶対にばれないが鉄則

一時的に膨らんだ金額も収入とみなされる生活保護制度では、ギャンブルをしていることがバレれば絶対に勝つことはできません。

中央競馬（JRA）、地方競馬、ボートレース、競輪、オートレースは、ネット経由で投票券を買えば、購入履歴からお金の流れが丸裸になり、生活保護費が不正受給とみなされるリスクがあります。宝くじのネット購入も同様です。

そのため、生活保護受給者は、場内・場外の投票券売り場、街中の宝くじ売り場で購入することが鉄則。そして、生活保護受給者にパチンコ・パチスロが人気なのは、お金の動きが見えないことも大きな理由のひとつのようです。