2023年01月08日

ボートレースの八百長疑惑、ふたたび

ボートレースの八百長疑惑、ふたたび

ざっくり言うと

  • ボートレースの八百長疑惑を報じた現代ビジネスの記事
  • 思い出される、2020年10月の八百長事件
  • 「今もボート界に八百長は存在する」(西川元レーサー)

2023年1月8日、ボートレースの八百長疑惑を報じた現代ビジネスの記事。

史上最高売上を達成の裏で…ボートレース界に忍び寄る、八百長スキャンダルの「深すぎる闇」
一流ボートレーサー逮捕の再来か…「証拠もある」不正が疑われるレーサーの元妻が衝撃告白


『問題となった10Rの全売上が約9600万円。ひとつ前の9Rが約5100万円。うしろの11Rは約4600万円。10Rだけ売上が倍近くに突出しています。競艇はイン(1号艇)に強い選手が入ると、固いレースということで売上が伸びる傾向にありますが、これほど極端に売れることはない。何十年もボートを取材していますが、ひと目で変だなと思います』
(現代ビジネスより)

『この10Rでは大外の6号艇が勝ち、3連単は「6-3-4」で2万9810円の高配当となった。失礼ながら、この6号艇は出走メンバーのなかで最も実力が低い選手。しかも大外6コースの進入です。さらにインの選手が舟券(3着以内)に絡んでいない。普通なら3万円程度の配当で済まないですよ。3連単で10万円ついても驚きません。10Rの確定オッズ、そして締め切り前オッズの推移を分単位で細かく検証すると、何者かが「1号艇」を外した買い目に数千万円規模の資金を投入していることがうかがえる。競艇ではもっとも有利とされる1号艇を外す――つまり「中穴」「大穴」の舟券に数千万円がベットされ、実際にその舟券が的中しているのだ。』(現代ビジネスより)

 

そして、本記事で思い出されるのが、2020年10月に八百長で懲役3年の判決が下った西川元レーサーの事件


◆八百長が疑われたレース

2019年7月2日、びわこボートレース場で開催された2レースで、事前に打ち合わせて、西川元レーサーがわざと4着と2着になることで、親族の増川容疑者にそれぞれ50.1倍と57.3倍の3連単を的中させ、その見返りとして300万円が支払われた


八百長疑惑レース①(4分35秒)

転覆した艇を回避するための決まりもあるのでしょうが、疑惑の西川元レーサーが3着に入りたくないと言わんばかりの遅走は、さすがに違和感を覚えます。

 

懲役3年の実刑判決と追徴金3,725万円

2020年10月21日、名古屋地裁は、ボートレースでの八百長事件で、西川元レーサーに対して、懲役3年の実刑判決を言い渡しました。

西川元レーサーは、去年1月から9月に計20のレースでわざと順位を下げるなどの八百長をして、見返りに親族の増川遵被告から計3,725万円を受け取ったモーターボート競走法違反の罪に問われていました。

名古屋地裁は、西川元レーサーに懲役3年の実刑判決と追徴金3,725万円(求刑懲役4年、追徴金3,725万円)を、親族の増川遵に懲役3年・執行猶予5年と罰金1,100万円(求刑懲役3年、罰金1,100万円)を言い渡しました。

名古屋地裁の西前征志裁判官は、「モーターボートレースの公正さや信頼を著しく落とした」として事件の重大さを指摘しています。

 


◆西川元レーサー本人による暴露本
『競艇と暴力団「八百長レーサー」の告白』

八百長をやっていた本人が語っている以上、これは揺るぎようのない事実であり、本書では競艇界にうごめく八百長の実態、具体的なその手口までが細かく綴られています。

『「今もボート界に八百長は存在する」と言う事実だ。なぜそれを断言できるかと言えば、俺の不正には共犯選手がいたからだ。そして、それ以外にも多数の選手の不正事実を俺は知っている。誰が、いつ、どのレースで八百長したか、具体的に証言することもできる。』(8ページ)


『収監競艇と暴力団「八百長レーサー」の告白』,西川 昌希(著),宝島社

<Amazonの紹介文>
公営競技・ボートレース史上最大の八百長スキャンダルはなぜ起きたのか。名古屋地検特捜部に逮捕された選手本人が、赤裸々にその不正の全貌を明かす懺悔の書。暴力団組長の子として育てられた数奇な生い立ちと、天才的な選手としての資質、そして驚くべき巧妙な不正の手口、消えた5億円の行方、そして不祥事をもみ消そうとしたボート界の隠蔽体質。業界騒然の話題作。

 

<明かされる八百長の手口>

本書では、具体的なレース名を挙げて八百長の手口が語られています。多くのレース映像がYoutubeに残っているので、本人による八百長の解説でレース映像を見ると、西川元レーサーの天才的な八百長テクニックに驚かされます。

『有利とされるインコースからわざと負けるといった、誰にでもできるような単純な仕掛けは、俺のプライドが許さなかった。レースのメンバーと実力、エンジン機力、レース場の特性、当日の天候と水面のコンディション、コース取り、人間関係を見極めたうえで、「ある選手を勝たせながら、別のある選手を妨害し、そして自分が3着に入る」といった困難なミッションを驚異的な確率で成功させた。』(4ページ)

『検察が調べたところでは、俺が2019年以降引退するまでに成功させた八百長レースは、全部で20レース。実はこのほかにも成功・失敗したケースがあるのだが、2019年以降はLINEのやりとりが証拠として残っているため、ほぼすべての不正レースが特定された。』(192ページ)

西川元レーサーは、八百長で2016年から5億円以上を不正に稼いだとしていますが、押収されたスマホのLINEから判明した2019年1~9月のわずか9ヵ月間の実績は、払戻し総額1億8,670万7,000円で、そこから賭け金を引いた純利益は1億1,142万4,000円だったとのこと。

 

<日本モーターボート競走会は事実無根と反論>

本書で八百長とともに語られるのが日本モーターボート競走会の闇。
日本モーターボート競走会は、西川元レーサーの八百長について「判決を大変重く受け止め、選手への指導強化など再発防止に全力で取り組む」と説明する一方で、告白本については、「全選手に聴取し、他に八百長はないと判断している。本には事実無根の内容が多々あり、法的措置を検討している」としています。

『検察や競走会は、今回の事件を「前代未聞の犯行」という。そんなことはない。表沙汰になったのは初めてかもしれないが、決定的な証拠がなかったというだけで、水面下では常に不正はあったし、いまもある。検察はともかく、競走会はそのことをよく知っているはずだ。』(9ページ)

『競走会が、いまのような隠蔽体質を改めない限り、今後とも不正がなくなることはないだろう。法的措置を取られてもいまさら俺は困らないが、もし証言の信用性をめぐって全面的に争うのであれば、俺は自分の知る他の選手の不正を語ることになるだろう。もちろん競走会が「業界の未来のためにすべてを公の場で話せ」というのであれば、いつでも俺は事実を話す。だが今の競走会にそこまでの覚悟があるとは思えない。』(10ページ)

 

◆さいごに

西川元レーサーは八百長について反省する一方で、自身のテクニックや儲けの大きさを自慢気に書いている部分が多々あり、ギャンブルファンとして、本書ほどイライラしながら読んだ本はありません。

『競艇ファンには、裏切りについてお詫びしなければならない。多くのファンが、俺のイン逃げを楽しみにして、1の頭から大きく舟券を買っていたはずだ。俺はときにブッ飛び、ときに2着、3着に落ちて高配当誘発したが、俺を信じていたファンほど、大きな損害をこうむったことは間違いない。命の次に大事な現金を張っていたファンに対しては、この場を借りて謝罪したい。深くお詫びします。』(247ページ)