ざっくり言うと
- 勝率2分の1のギャンブルでも、結果は勝ち越しか負け越しに偏ることが多い
- トントンで終わる人は、大勝する人や大敗する人よりはるかに少ない
- 勝っている人はその後も勝ち続ける可能性が高く、負けが込んでいる人はその後も負け続ける可能性が高い
機械割(ペイアウト率)99%のパチスロで大負けしたことがある人は少なくないのでは?
多くの人は、「勝率はほぼ2分の1なので、勝ったり負けたりしながら、最終的にトントンの結果に落ち着く」と考えるようです。しかし、この考えは大きな間違いです。
勝つ人は勝ち続けて大勝、負ける人は負け続けて大敗することが多く、プラスマイナスゼロのラインを行ったり来たりする人は、大勝する人や大敗する人よりはるかに少なくなります。
この不思議な現象は、逆正弦定理で説明できます。
◆コイン投げのゲーム
コインを投げて表が出れば1万円もらえ、裏が出れば1万円支払うコイン投げのゲームを10回繰り返します。コインに偏りはなく、表が出る確率も裏が出る確率も2分の1(勝率50%)とします。
ゲーム結果のパターンは、全部で1,024 (=2の10乗) 通り。そのうち、最も多いのは5勝5敗(プラスマイナスゼロ)の252通り。次いで多いのが、6勝4敗(プラス2万円)と4勝6敗(マイナス2万円)の210通り。一方で、最も少ないのは10連勝(プラス10万円)と10連敗(マイナス10万円)のそれぞれ1通り。
10ゲームの累計収支をグラフにすると、5勝5敗(プラスマイナスゼロ)を頂点とした山形になります。
この結果は、比較的容易に想像することができます。
上記の結果から、「勝ち越しの状態(それまでの累計収支がプラス)」と「負け越しの状態(それまでの累計収支がマイナス)」は、同じくらいの割合で起こると感じてしまいます。
次に、この直観が正しいのかを検証してみます。
◆勝ち越しの期間と負け越しの期間
10回のコイン投げで、コインを1回投げるごとに、勝ち越しの状態か負け越しの状態かを調べ、「黒字の状態の数-赤字の状態の数」をグラフにしてみます。
・10回とも裏の場合、累計収支は常に赤字となり状態の差はマイナス10。
・6回裏が出た後に4回表が出た場合、ずっと赤字のため状態の差はマイナス10。
・3回裏が出た後に7回表が出た場合、6回目が終わったところで累計収支は0。それまでの5回は赤字、それ以降の4回は黒字なので、状態の差はマイナス1。
・3回表が出た後に7回裏が出た場合、6回目が終わったところで累計収支は0。それまでの5回は黒字、それ以降の4回は赤字なので、状態の差はプラス1。
すべてのパターン1,024通りについて、「黒字の状態の数-赤字の状態の数」を計算してグラフにすると、次の結果になります。
直観に反して、最も多いのはずっと黒字(プラス10)とずっと赤字(マイナス10)の126通り。次いで多いのが、黒字の状態が9回と赤字の状態が9回の70通り。一方で、黒字5回赤字5回(プラスマイナスゼロ)の状態は最も少なく28通りしかありません。
つまり、10回ゲームを行うと勝ち越しか負け越しのどちらかに偏ることが多く、勝ち負けが拮抗するシーソーゲームはあまり起こらないことがわかります。
◆勝っている人は勝ち続け、負けている人は負け続ける
累計収支は収支0を頂点とした山形になり、黒字の状態か赤字の状態かをみると、どちらかに大きく偏ることが分かりました。
この結果から、ギャンブルで勝っている人は、その後も勝ち続ける可能性が高く、ギャンブルで負けが込んでいる人は、その後も負け続ける可能性が高いといえます。
もう少し詳しく説明すると、この場合の「勝ち続ける(負け続ける)」は、原点よりも「勝った(負けた)状態が続いている」ことを意味しており、コインの表(裏)が出る確率が上がる訳ではありません。
例えば、ある地点で2万円勝っていて、そこからギャンブルを続けた場合、その後の期待値はプラスマイナスゼロではなく2万円の勝ちのままです。勝率は2分の1なので当然の結果です。
逆に、2万円負けていて、そこからギャンブルを続けた場合、その後の期待値はプラスマイナスゼロではなく2万円の負けのままです。こちらも勝率は2分の1なので当然の結果です。
つまり、勝っている人は勝っている分だけ原点から離れており離れた分だけ有利、負けている人は負けている分だけ原点から離れており離れた分だけ不利ということです。
そして、勝ち越している人はなかなか勝負をやめずさらに勝ちを大きくし、負け越している人は途中で心が折れて勝負をやめてしまいます。これが一握りの人だけがギャンブルで大勝し、多くの人がギャンブルで負けてしまう理由です。
◆さいごに
表と裏の出る確率がいずれも2分の1の公平なギャンブルでもこの結果です。
ハウスエッジ(胴元の取り分)がある実際のギャンブルでは、負ける確率は2分の1よりも大きく、負け越すリスクはさらに高まります。
また、数学的なリスクに加えて、負けが続くと精神的にも負けるリスクが高まることが、京都大学の楠見教授と田岡氏の論文でも明らかになっています。
出典:勝ちばかりでも、負けばかりでも、「無謀な賭け」につながる -望み薄なギャンブルに賭けてしまうのはなぜか?-
『参加者の賭け行動を時系列解析したところ、事前に多くの負けを経験した参加者は実験の終盤において集中的に無謀な賭けを行っていたことが明らかとなり、無謀な賭けと「負け追い」(損失を取り返そうとする行動)の関連性を示唆する結果が得られました。』(楠見教授・田岡氏)
これらのことから、ギャンブルでスタートから負けが続いたら、せめてトントンになるまでと粘るのではなく、その日はツイていないときっぱり諦めて、早々に撤退することが賢明な判断となります。