2023年01月25日

ポーカープレイヤーのマイク・ポストルは天才かイカサマ師か

小ネタ
ポーカープレイヤーのマイク・ポストルは天才かイカサマ師か

ざっくり言うと

  • 勝ちまくった疑惑のポーカープレイヤー、マイク・ポストル
  • 映像を分析した結果、彼のアクションは統計的にありえない
  • 2019年10月、88人のポーカープレイヤーがポストル氏を訴える
  • 裁判所は、ポストル氏を無罪に

カリフォルニア州サクラメントのStones Gambling Hallで行われているポーカーのキャッシュゲーム「Stones Live Poker stream」で勝ちまくった疑惑のポーカープレイヤーマイク・ポストル(Mike Postle)。

ポストル氏は、このゲームで連勝を重ね約25万ドルの賞金を獲得していますが、ポストル氏がプレイ中に何度もスマートフォンをのぞき見していたことで、ポストル氏の不正を疑う声が複数のプレイヤーから上がりました。

 


◆ポストル氏のイカサマ疑惑

「Stones Live Poker stream」の関係者で、ポーカーコメンテーターでもあるベロニカ・ブリル氏は、2019年9月下旬、ポストル氏のあまりの勝率の高さ、獲得賞金の多さ、対戦相手のカードを知っているかのようなアクションに対して、イカサマを疑うツイートを始めました。ブリル氏は、彼がプレイト中に頻繁にスマートフォンをチェックし、そのスマートフォンを通じて他のプレイヤーのカード情報を得ていたと主張しています。

ブリル氏の告発をきっかけに、ポストル氏への疑惑は、複数のオンラインコミュニティでさかんに議論されることになります。オンラインコミュニティの参加者たちは、Twitchでライブ配信された映像からポストル氏のアクションを分析し、彼のジャッジと勝率が統計的にありえないと結論付けました。そして、多くのポーカーのプロがブリル氏を支持し、2019年10月、88人がポスル氏への民事訴訟を起こしました。

 


ポストル氏の疑惑のプレイ

 


◆ポストル氏のイカサマの手口

ポストル氏のイカサマの手口は、極めてシンプルなものです。「Stones Live Poker stream」で使用してるカードには、RFID(非接触IC)が埋め込まれています。プレイヤーに配られたRFIDカードは、ポーカーテーブルのカードリーダーで読み取られ、解説者や視聴者はライブ感覚で伏せられたカードを見ることができます。ただし、配信はゲームの不正を防止することを目的に、他の配信同様、30分遅れて放送されていました。

つまり、このイカサマには、カードリーダーで読み取った生のカード情報をリアルタイムでポストル氏に伝える共犯者が存在していたことになります。このイカサマ疑惑が真実なら、ポスル氏の共犯者は「Stones Live Poker stream」の技術スタッフか、少なくともRFIDシステムのバックエンドにアクセスすることができた人物だということになります。

そして、不正にカード情報を入手した共犯者は、それをポストル氏のスマートフォンに送信し、ポストル氏は自分の手札を確認すると見せかけて股に置いたスマートフォンを見て、その情報をもとに次のアクションを決めていたと推測されています。

 


◆ポストル氏らへの訴訟の内容

イカサマで金銭的な損害を受けたと主張する24人のプレイヤーは、ポストル氏らに対して3,000万ドルの訴訟を起こしました。

原告側は、ポストル氏が他のプレイヤーのカード情報を、ポーカーテーブルの下で操作していたスマートフォン、または、野球帽に埋め込まれた通信機器、あるいはその両方を通じて受け取っていたと主張しています。

原告側は、ポストル氏のプレイを分析し、プロのポーカーの世界では統計的にあり得ないことだと結論付けています。ポストル氏のほとんどのアクションが、彼の金銭的利益に最適な方法がとられており、彼の勝利は、単なる異常値ではなく、指数関数的に異常で、世界最高のポーカープレイヤーよりはるかに高度なものだったと指摘しています。

また、カリフォルニア州の他の場所でも同様の配信が行われているにもかかわらず、ポストル氏が「Stones Live Poker stream」の配信セッションにしか参加せず、配信終了後、通常のゲームにはほとんど参加しなかったことも不自然だと指摘しています。

訴状では、ポストル氏と共犯者に対して、ゆすり、詐欺、過失、不当利得を、カードルームを運営していたStones Gambling Hallに対して、不正行為があったという苦情を軽視し続け、同時にポスル氏をポーカーの天才だと宣伝したことへの過失を、さらに、Stone社のポーカールーム・マネージャーであるジャスティン・クライティス氏を、この状況を隠蔽し問題を必要以上に長引かせたことへの詐欺行為で告発しています。

原告は、ポストル氏に1,000万ドル、Stones Gambling Hallに1,000万ドル、そして、Stone社のポーカールーム・マネージャーであるジャスティン・クライティス氏に1,000万ドルの損害賠償を求めています。

 


◆裁判の結果

2020年9月、88人の原告のうち60人以上がポストル氏との和解に応じています。和解の内容や和解金の額は公表されていません。

そして、カリフォルニア州の連邦裁判所は、ギャンブルの借金は裁判では取り戻せないという古風な州法を引用して訴状を棄却しました。つまり、ギャンブルによる損失は、推測可能なものであり、その損害を回復するための訴訟は、長年のカリフォルニアの公共政策によって禁止されてきたことが理由として挙げられています。

 


◆ポストル氏が反撃を試みるも

ポストル氏は、彼に詐欺師ののレッテルを貼った12人の告発人に対して、3億3,000万ドルの損害賠償を求めて名誉毀損訴訟を起こしました。

ポストル氏からの訴訟のポイントは、被告がツイッター、YouTube、またはその他のメディアで彼に詐欺師のレッテルを貼ったとき、それが嘘だと自覚していたこと、また、根拠のない誹謗中傷によってポストル氏のポーカーキャリアが完全に失われたこと、家を出ることができないレベルのストレスを受けたことなど、彼に対する訴訟で深刻な被害を受けたと主張しています。

それに対して、訴えられたブリル氏は、自身を擁護するための資金集めをGoFundMeで開始し26,000ドル以上を集め、ポストル氏と徹底抗戦する構えを示しました。

ブリル氏らは、ポストル氏からの訴訟を封じるため、反SLAPP訴訟を起こしました。SLAPP(Strategic Lawsuit Against Public Participation)とは、真実相当性のある批判・発信に対して、金銭的余裕のある側が最終的に敗訴・棄却される結果となろう事例に「名誉毀損」と主張する訴訟提起をし、裁判費用・時間消費・肉体的精神的疲労などを相手に負わせることを目的に起こされる加罰的・報復的訴訟です。これが功を奏し、ポストル氏は訴訟を取り下げることとなり、結果、ポストル氏が被告側の弁護士費用を負担することになりました。そして今現在も、この骨肉の争いは続いています。

 

※サムネイル画像はCardplayerより